東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)180号 判決 1976年7月20日
原告 関東倉庫株式会社
被告 下谷税務署長 ほか一名
訴訟代理人 玉田勝也・大石敏夫 ほか二名
主文
一 本件訴のうち、各異議申立棄却決定の取消を求める部分について訴を却下し、その余の部分について請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告下谷税務署長が原告に対し昭和四三年二月二八日付でなした原告の昭和三九年四月一日から昭和四〇年三月三一日までの事業年度分(以下昭和三九事業年度分という。)、昭和四〇年四月一日から昭和四一年三月三一日までの事業年度分(以下昭和四〇事業年度分という。)の法人税の各更正処分、昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度分(以下昭和四一事業年度分という。)の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し、裁決により一部取消された後のもの。)並びに昭和四三年六月二七日付でなした右各事業年度分の法人税更正処分の異議申立を棄却する旨の決定(但し裁決により一部取消された後のもの。)を取清す。
2 被告東京国税局長が原告の昭和三九ないし四一事業年度分の法人税更正処分にかかわる審査請求について昭和四四年六月三日付でなした各裁決を取消す。
二 請求の趣旨に対する被告両名の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、その昭和三九ないし四一事業年度の法人税についてそれぞれ別表一ないし三のとおり確定申告をしたところ、右各表記載のとおり被告署長は各更正決定及び過少申告加算税賦課決定をした。そして、これに対する異議申立から被告局長の裁決に至る経過は右各表記載のとおりである(なお、異議申立棄却決定の通知を受けたのは昭和四三年六月二八日である)。
<以下省略>
理由
一 請求原因1(処分の経緯)については、当事者間に争いがない。
二 異議申立棄却決定の取消を求める訴の適法性について
被告署長が、原告の昭和三九ないし四一事業年度の法人税に関する各更正決定及び昭和四一事業年度の法人税に関する過少申告加算税の賦課決定に対する各異議申立につき、昭和四三年六月二七日異議申立を棄却する旨の各決定をしたことは当事者間に争いがない。
ところで、原告は右各異議申立棄却決定の取消を求めるのであるが、右決定の取消を求める訴は行訴法三条三項にいう「裁決の取消しの訴え」にあたり、従つてその出訴期間については同法一四条一項、三項の適用を受け、同条四項の適用はなく、異議申立についての決定があつたことを知つた日または決定の日から、これを起算すべきものである(最高裁判所昭和五一年五月六日判決、裁判所時報六九〇号参照)。
しかるに、本件異議申立棄却決定の原告に通知された日が昭和四三年六月二八日であることは当事者間に争いのないところ、原告が本訴を提起したのは昭和四四年九月二日であることが記録上明らかであるから、本件各異議申立棄却決定の取消を求める訴は出訴期間を徒過した後に提起された不適法なものといわなければならない。
三 その余の請求の当否について
本件各処分に原告主張の違法があるかどうかについて順次判断する。
1 所得の過大認定について
(一) 宇野歌子の役員報酬否認について(昭和三九ないし四一事業年度分)
原告が宇野に対し役員報酬(昭和三九事業年度分七二〇、〇〇〇円、昭和四〇年事業年度分八四〇、〇〇〇円、昭和四一事業年度分八七〇、〇〇〇円)を支払つたものとして確定申告をしたところ、被告署長がこれを否認したことは当事者間に争いがない。
原告は宇野に対して右確定申告にかかる金額の役員報酬を支払つたと主張するのであるけれども、原告が宇野に対して現実に右主張金額を支払つたと認めるに足りる的確な証拠は存しない。
しかも、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められる。
原告会社は、倉庫業を目的として昭和二四年七月一五日設立され、東京都台東区上野に本店を置き、神奈川県横須賀市及び東京都世田谷区池尻町の二か所に倉庫を有する同族会社であり、一方加茂は、旅館を目的として、昭和二七年九月に設立された原告会社と本店所在地を同じくする株式会社であつて、いずれも原告会社代表者加藤修治が事実上主宰するものである。宇野は、加藤修治の妻淑子の実家で養育されたが、淑子の結婚に際して、同人とともに加藤家に入り、加藤家の一員として生活していたところ、加茂が設立されてからは、加茂の業務に従事していた。
ところで、昭和三八年五月原告会社の株主総会において宇野を取締役に選任する旨の決議がなされたこととなつており、その旨の登記もなされているが、同人の勤務状況は、取締役就任前と何ら異なるところはなかつた。また、原告会社の経営は、横須賀倉庫が委託経営、池尻倉庫が自営であるが、荷役作業は他社に委託して手数のかからない経営方法をとつており、主な取引先は、食糧庁と東京電気株式会社のみであつて日常の事務量は少ないところ、原告会社には、代表取締役修治と専務取締役淑子のほかに、男子の取締役二名がおり、そのほかにも一〇名前後の従業員が就労しているので、宇野をとくに取締役として職務に関与させることを必要とする程の状況にもなかつた。
他方加茂の従業員は、宇野と代表取締役である淑子のほか一、二名であり、しかも淑子は病弱であるため宇野が中心となつて加茂の業務全般をとり仕切らなければならない状況であつたので、同人には原告会社の取締役としての職務を遂行する時間的余裕もなかつたものである。
右認定事実からすると、宇野は専ら加茂の業務に従事しており、原告会社の取締役としての地位は、各目的で仮装のものにすぎないものと認めるのが相当である。
もつとも、<証拠省略>によれば、原告会社の取締役会議事録なるものに、宇野名義の記名、捺印のあることが認められるけれども、前示認定事実からすれば、取締役会議事録たるべきものに同人の記名、捺印がなければならないことはむしろ当然というべきことであつて、これをもつて直ちに同人が仮装取締役であるとの前示判断を左右することができるものではないのみならず、右各証自体採用しがたいものである。すなわち、<証拠省略>によれば、異議申立担当官が昭和四三年六月ころ、原告会社代表者に対して原告会社の業務に宇野が従事している証拠資料の提出を求めたところ、原告会社代表者は、原告会社のような中小企業においては取締役会の議事録を作成しているようなところはないといつて提出しなかつたにもかかわらず、昭和四四年二月になつて、右各証が議事録であるとしてにわかに審査請求担当協議官に提出されるに至つたものであることを及び<証拠省略>によれば、同様の議事録に取締役として小松田良平名義の記名、捺印がされているのであるが、同人は原告会社の単なる各目上の取締役にすぎず、もとより取締役会の招集通知を受けることも、出席することもなく、同証に同人名義の記名、捺印がなされているのはあらかじめ包括的に承諾していたことによるものであることが認められるのであつて、これらの事実に徴すると、前掲各証が取締役会議事録としてその当時作成されたものであること及び右各証の宇野名義の記名、捺印が、その都度同人が取締役会に出席したことに基づき、その記載内容を確認したうえ同人自身によつてなされたものであることは、いずれもこれを認めがたいところといわざるをえない。
<証拠省略>のうち、前記認定に反する部分は採用しがたく、その他、前記認定を覆すに足りる証拠はない。
してみれば、原告の確定申告にかかる宇野に対する前記金額の役員報酬は仮装の役員に対する報酬であつてこれを否認するのが正当である。もつとも、被告署長は、右報酬を、法人税法一三二条(但し昭和三九事業年度分について適用のある法規は、法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前の法律、以下旧法人税法という。)三〇条というべきである。)に基づき否認したものであるが、右は否認の法律上の根拠を異にするだけでその効果に影響を及ぼすものではないというべきであるから、被告署長が宇野の役員報酬を否認したことは、結局違法ではないことに帰するものといわなければならない。
(二) 加藤修子の役員報酬否認について(昭和四一事業年度分)
原告が加藤修子に対して取締役報酬として昭和四一事業年度分に九三〇、〇〇〇円を支払つた旨の確定申告をしたところ、被告署長がそのうち六〇〇、〇〇〇円を超える分についてこれを否認したことは当事者間に争いがない。
前掲各証拠及び<証拠省略>によれば次の各事実が認められる。
修子は、原告会社代表取締役加藤修治の長女で、原告会社の従業員として就労し、月額三〇、〇〇〇円の給与の支給を受けていたところ、修治の後継者という立場から、昭和四一事業年度中の昭和四一年五月一七日原告会社の取締役に就任したが、就任当時同人は一八才であつて、しかも大学国文科第一学年(昼間)に在籍し、学業の余暇を利用して、原告会社の経理関係の帳簿の整理、自動車運転等の職務に従事していたものである。
ところで、原告会社の右事業年度中の取締役に対する報酬額は、代表取締役の修治に対し二、四〇〇、〇〇〇円(月額二〇〇、〇〇〇円)、専務取締役の淑子に対し一、二六〇、〇〇〇円(月額一〇五、〇〇〇円)、原告会社設立以来の非常勤の取締役である山田義元に対して六〇〇、〇〇〇円(月額五〇、〇〇〇円)、同じく非常勤の取締役である鈴木守に対して二四〇、〇〇〇円(月額二〇、〇〇〇円)であり、使用人に対する給料の最高額は二三才の成年男子に対する月額三〇、〇〇〇円である。
右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実からすると、修子は将来修治の後継者となる者であるとしても、修子の知識、経験、取締役として就任間もない事実、勤務状況、職務内容等からみた同人の会社経営に参画する程度と他の取締役、使用人に対する報酬、給与の額等を併せ考えると、修子に対して支払われるべき報酬の客観的相当額は、いかに高くみても山田に対する報酬額以上には出ないものというべきであるから、修子に対する報酬額九三〇、〇〇〇円のうち六〇〇、〇〇〇円を超える分は、不相当に高額な金額であると認めるべきである。
従つて、被告署長が法人税法三四条一項に基づき、確定申告額のうち六〇〇、〇〇〇円を超える分の損金算入を否認したことは違法ではないといわなければならない。
(三) 交際費の否認について(昭和三九ないし四一事業年度分)
原告が交際費として昭和三九事業年度分二、一一五、一一四円、昭和四〇事業年度分一、四八〇、二一二円、昭和四一事業年度分一、八二六、六四五円を支出した旨の確定申告をしたところ、被告署長が、そのうち昭和三九事業年度分につき一、一二六、六五〇円、昭和四〇事業年度分につき九一〇、五二一円、昭和四一事業年度分につき九三五、三〇〇円を否認したことは当事者間に争いがない。
ところで、原告は、右の否認にかかる交際費は原告が加茂における食糧庁関係者のマージヤン接待のために加茂に対して支払つたものであると主張する。
前掲各証拠によれば次のとおりの事実が認められる。
原告会社代表者は、原処分及び異議申立の調査担当官並びに審査請求担当協議官の調査を受けた際、加茂において得意先を接待した費用であるとして、原告会社あての加茂名議の公給領収証を提示したが、これによると接待回数は、昭和三九事業年度一〇一回、昭和四〇事業年度九一回、昭和四一事業年度九五回に及び、日曜祭日にも接待し、その金額は一回当り概ね一〇、〇〇〇円であつて、確定申告にかかる当該各事業年度の交際費のそれぞれ五三%、六一%、五一%を占めていることが認められる。
右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、交際接待費については、租税特別措置法六二条三項(但し昭和四五年法律第三八号により削除)において「交際費等とは、交際費、接待費。機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、きよう応、慰安、贈答その他これに類する行為のために支出するものをいう。」と規定されている。
従つて、当該金額が交際接待費の名義で支出されているからといつて直ちに法人税法上損金として認められるわけではなく、損金として認められるためには、その費途が明らかであつて、その費途が法人の業務の遂行に関連のあるものであることを要するものというべきである。
しかるに、本件においては、原告のいう接待の態様が前示のようなものであること及び原告にとつて業務の遂行上必要なものとして認容された前示金額の交際費が他に存在すること並びに原告と加茂とが前示のように特別の関係にあること等を総合斟酌すると、原告が右認定のような接待を、その主張するような食糧庁関係者を対象としてしなければならない事業遂行上の必要が何故あるのか客観的にみて首肯できず、すなわち交際費として認容すべき業務との関連が明らかとはいえない。
原告は、原告会社代表者が接待の相手方の氏名を開示すると贈賄罪として刑事責任を問われるおそれがあるので、相手方の所属官庁、部は開示したが、個人名については調査に応じなかつたところ、被告署長は、相手方の氏名を明らかにしないというだけで交際費であることを否認したものであり、右は原告会社代表者の黙秘権を侵害するものであつて違法であると主張する。
しかしながら、原告会社代表者が接待の相手方の氏名を開示しないということを理由として交際費であることを否認することが仮に憲法三八条一項に違反すると解すべきものとしても、一般的にいえば、交際費として確定申告された金額が社外に支出されていることが明白に認定できて、申告法人の事業内容、支出の金額、接待の時期、方法等、接待の態様、認容され得る他の交際費の金額、過年度の事績、同種事業目的の法人との比較等からして当該法人の事業の遂行上客観的に必要な接待と認められる以上は、その費用は交際費として認容されるべきものであり、接待の相手方の氏名を開示しないことは、事実上交際費であることの認定を困難とする一の事情とはなつても、交際費として認定され石ための不可欠の要件であるわけではない。すなわち、交際費として認容されるためには接待の相手方の氏名を開示することを常に必要とするものではなく、反対にこれを開示したからといつて必らずしも接待費として認容されるというわけのものでもないから、接待の相手方の氏名を開示することと交際費として認容されるということとの間には税法上直接の関係があるものではないというべきである。
現に本件に関していえば、交際費であることを否認するのを正当と判断した理由は前述のとおりであつて、接待の相手方の氏名を開示しなかつたことによるものではないのである。
そうであるとすれば、被告署長が交際費を否認したことは結局違法ではないといわなければならない。
(四) 売上計上もれの加算について(昭和四一事業年度分)
被告署長が、原告において日本通運株式会社に対して坪貸した横須賀倉庫の一部二〇〇坪の保管料収入五〇〇、〇〇〇円(一か月を一日から一五日までの上期と、一六日から末日までの下期とに分け、一期当り一〇〇、〇〇〇円の割合による昭和四二年一月下期から同年三月下期までの五期間分)を売上計上もれとして加算したことは当事者間に争いがない。
原告は、右保管料収人五〇〇、〇〇〇円のうち第一期(昭和四二年一月下期)分の一〇〇、〇〇〇円を除く残余の四〇〇、〇〇〇円は保管料ではなく、有益費用の償還請求権あるいは損害賠償請求権であり、しかも貨物を引取つてもらうためには引越料等を支払わなければならない事情にあつたから、昭和四一事業年度の債権としては未確定であつたと主張する。
右の争いのない事実と<証拠省略>によれば次の事実が認められる。
原告会社は、昭和四二年一月下旬に、日本通運株式会社に対して原告会社所有の横須賀倉庫の一部二〇〇坪を、保管料一期分一〇〇、〇〇〇円の約で坪貸し、日本通運株式会社は、関東自動車株式会社の貨物を寄託した。右契約は口頭でなされ、期間については、ごく短期間という程度のことで明確には約定されなかつた。ところで、右の貸物は、昭和四二年七月までに出庫されたが、原告会社は、別表四のとおりの日付で日本通運株式会社に対して保管料として請求し、同年六月二七日までにすべて受領している。
右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実によると、右契約には当事者の合意による期間の定めがないというべきであるから、倉庫寄託約款<証拠省略>に従い、その一七条によつて受寄物の保管期間は三か月ということになり、昭和四二年一月下期分はもとより二月上期から三月下期分についても各期の終了した都度、前示割合による保管料債権が発生するものというべきである。
そして、弁論の全趣旨によれば、右債権については原告において法律上これを請求できないとすべき事情にあつたものでないことはもとより(現に原告が当該事業年度中あるいは翌事業年度始めに履行の請求をしていることは前示認定のとおりである)、荷主に対して引越料等を支払わなければならない必至の事情にあつたとも認められないうえ、右の引越料等は課税上斟酌されるとすれば損費としてであつて、しかも支出すべきことが確定した時点で損費として発生し、損金処理されるべきものである。
そうとすれば、昭和四一年二月上期から同年三月下期までの合計四期分四〇〇、〇〇〇円については、昭和四一事業年度にこれを保管料債権として行使するについて法律上何ら妨げがないというべきであるから、当該事業年度の売上として計上すべきものというべきであり、被告署長が右金額を売上、計上もれとして加算したことは違法ではないといわなければならない。
2 更正決定等の手続の違法について
(一) 更正決定の手続について
原告は、原処分の調査担当官が、原告会社の各役員の個人預金通帳について調査を行なつたとして、右調査は、法人税法一五三条、一五四条に抵触する等の違法があると主張する。
ところで、法人税法上における質問検査に関しては、旧法人税法四六条、法人税法一五四条において対象者が制限されているほか、質問検査の範囲、程度、時期、場所等についても、条理上、調査の客観的必要性に基づく制限があると解すべきものである。しかしながら、仮に右の制限を越えた質問検査によつて取集された資料に基づいてされた課税処分を違法と解すべき余地があるものとしても、一般に法人税の調査に関して当該法人の役員個人の預金通帳につき調査することは、それだけでは直ちに前示制限を越える違法なものとは断ずることができないのみならず、本件においては、すべての証拠によつても、原処分の調査担当官が、原告会社の役員個人の預金通帳について調査したこと、あるいは右預金通帳を更正決定の資料に供したことは認められないので、原告の前記主張はいずれにしても結局失当といわざるをえない。
(二) 異議申立に対する決定の手続について
原告は、右手続の違法をいうけれども、右決定の取消を求める訴が不適法であることは前示したとおりであるから、原告の右主張については判断の要をみないところである。
(三) 裁決の手続について
(1) 原告は、審査請求について審査するにあたつては、条理上請求人に処分庁の弁明書の提出請求権が認められるべきであるにもかかわらず、本件各裁決は弁明書が提出されずになされたものであるから憲法三二条に違反し、違法であると主張する。
しかしながら、憲法三二条が審査手続に直接適用されるものでないことはいうまでもない。
しかも、そもそも本件裁決がされた当時は、国税通則法九三条の規定はなく、行政不服審査法二二条の規定によるべきものであつたところ、右規定は、審査庁において処分庁に対して弁明書の提出を求めるかどうかについては審査庁の事案に即した適切な裁量判断に委ねた趣旨と解すべきであるから、原告の主張する審査請求人からする弁明書の提出請求権のごときものは右規定の保障するところではないというべきである。
その他、審査請求人が右のごとき請求権を有するとの条理上当然というべきほどの根拠も見出すことができず、そうとすれば原告の前記主張は所詮立法論か、そうでないとしても前示規定の運用一般を非難するに過ぎないことに帰するものといわざるをえないものというべきである。
付言するに、本件において被告局長が被告署長に対して弁明書の提出を求めなかつたことは被告らの認めるところではあるけれども、仮に弁明書の提出を求めないことが事情によつては裁量権の濫用にあたる場合があり、かつそれが裁決の取消事由となり得るとしても、本件においては、右のような事情については、原告の何ら主張しないところであるのみならず、証拠上もかえつて弁明書の提出を求めなかつた相当な事情が認められこそすれ、裁量権の濫用にあたるような事情はまつたく認められないところである。
(2) 原告は、国税庁協議団及び国税局協議令四条一項但書の規定等を根拠として協議団及び令四条は、その規定と運用において憲法三二条に違反すると主張する。
しかしながら、憲法三二条は裁判の拒絶の禁止を定めたものであるから、裁判そのものではない行政不服審査に関する手続をいかに定めるかということは、それが裁判の拒絶に等しい結果を招来するような不合理なものでないかぎり、立法の当否の問題であつて憲法上の適否の問題ではないというべきである。しかも、協議団の制度及び令四条の規定が一般に裁判の拒絶に等しいような結果を招来するものとはいえないことはもとより、本件における運用についてみても右のような事実は何ら認めるに足りない。
原告の主張は結局立法の不当をいうに帰するものであつて、本件審査裁決を違法ならしめる事由にはあたらないといわなければならない。
(四) 各決定、裁決の手続について
原告は、宇野に対する役員報酬を法人税法一三二条に基づいて否認することは憲法一四条に違反すると主張する。
しかしながら、憲法一四条は合理的な理由による差別までをも禁止するものではないと解すべきところ、旧法人税法三〇条、法人税法一三二条の同族会社の行為計算否認規定の趣旨は、同族関係によつて会社経営の支配権が確立されている同族会社においては、法人税の負担を不当に減少させる目的で、非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがあるので、同族会社と非同族会社との課税負担の公平を期するために、同族会社であるが故に容易に選択することのできた課税負担を免れるような行為計算を否認し、同じ経済的効果を発生するために通常採用されるであろうところの行為計算に従つてその課税標準を計算し得る権限を徴税機関に認めたものであつて、同族会社に対してのみこのような行為計算の否認の規定を設けたことについては十分な合理性があるというべきである。
のみならず、宇野に対する役員報酬の否認は、同族会社の行為計算否認の規定によるまでもなく、正当であることは前示したとおりである。
従つて原告の前記主張はいずれにしても失当といわなければならない。
四 よつて、本件訴のうち、各異議申立棄却決定の取消を求める部分について訴を却下し、その余の部分について、いずれも請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 内藤正久 山下薫 飯村敏明)
表一
昭和三九事業年度分(自昭三九・四・一至四〇・三・三一)
区分
年月日
課税所得金額
(円)
税額
(円)
加算税
(円)
翌期に繰越す欠損金額
(円)
確定申告
四〇.五.三一
△一、一六三、〇二〇
〇
三、七六〇、七九八
更正
四三.二.二八
〇
〇
〇
一、八六〇、一四八
異議申立
四三.三.二九
△一、一六三、〇二〇
〇
〇
三、七〇六、七九八
同決定
四三.六.二七
(棄却)
一、八六〇、一四八
審査請求
四三.七.二〇
△一、一六三、〇二〇
〇
〇
三、七〇六、七九八
同裁決
四四.六. 三
(棄却)
一、八六〇、一四八
(△印は赤字を示す)
表二
昭和四〇事業年度分(自昭四〇・四・一至四一・三・三一)
区分
年月日
課税所得金額
(円)
税額
(円)
加算税
(円)
翌期に繰越す欠損金額
(円)
確定申告
四一.五.二七
〇
〇
三、六二三、七二九
更正
四三.二.二八
〇
〇
〇
二六、五五八
異議申立
四三.三.二九
〇
〇
〇
三、六二三、七二九
同決定
四三.六.二七
(棄却)
二六、五五八
審査請求
四三.七.二〇
〇
〇
〇
三、六二三、七二九
同裁決
四四.六. 三
(棄却)
二六、五五八
表三
昭和四一事業年度分(自昭四一・四・一至四二・三・一)
区分
年月日
課税所得金額
(円)
税額
(円)
過少申告加算税
(円)
翌期に繰越す欠損金額
(円)
確定申告
四二.五.三〇
〇
〇
三、五五二、五六二
更正
四三.二.二八
三、二七九、九〇九
九三七、六〇〇
四六、八〇〇
〇
異議申立
四三.三.二九
〇
〇
〇
三、五五二、五六二
同決定
四三.六.二七
(棄却)
〇
審査請求
四三.七.二〇
〇
〇
三、五五二、五六二
同裁決
四四.六. 三
二、六七九、九〇九
七五〇、一〇〇
三七、五〇〇
〇
表四<省略>